==岸ゴムほぼ日刊コラム==

岸ゴムほぼ日刊コラム

■■ 羊男のクリスマス ■■

Written by カフカ

最新のコラム

「根っこがヤンキー」について

何というかうまく表現できないのだけれども、言葉にできない言葉を言葉にできてしまう人がいる。
それはまるで宇宙の真理みたいであって、風みたいに自由で、とてもとても素朴なもの。

仮に世界の言語を全て習得し、過去から現在までの読むに値する全ての文学に浸り、文法と慣用句を咀嚼し駆使したとしても出てこない言葉が確かにあって、それを不意に、本当に不意に、さらりと口にする人がいるのだ。

ずっと頭か心かどっかしら（とてもあやふやな所）に存在してたよくわかんない何かを、簡単に言葉に紡いで形にしてしまい、さりげなく置いていく。そんな人を少なくとも僕は何人か（本当にそれは少ないのだけれど）知っている。

その時は突然やって来るので、瞬間僕は固まってしまう。
世の中の重大な要素を突然知らされた気分になって動けなくなる。
あぁ世の中にはこんな秘密があったのだなと、天ではなく地が回転していたのだなと、突然知らされ感動に打ち震えるのだ。
比喩ではなく、本当に心が震える。コペルニクスを支持したガリレオもきっとぶるぶる震えていたに違いない。

これは僕を悩ませる血糖値の低さからくる震えではない。
僕の心が「それだー！それを言いたかったんだ！」と叫ぶ声が僕の痩せた体に響く震えなのだ。

2016年12月31日（土） No.43

文庫本について

僕はかばんを持たない。
何でもポケットで突っ込んで済ませてしまう。

だから僕は小説を購入する際は、必ず文庫本である。
おしりのポケットで持ち歩くので、1ページ目を読む前に
可哀相なカバーは捨てられてしまうことになる。

高校生の頃は憑かれたように文字を読んでいた。
古本屋で文庫本を大量に購入してきては、カバーを捨て、ページをめくる。
そして次の本のカバーを捨て、ページをめくる。
熟練の羊飼いが毛を刈り取るように、無感動に作業を続けていた。
僕の部屋は羊毛のかわりに、裸の古本ばかりが増えた。

初めて出来た恋人はふたつ年上で、専門学校に通う為、島根県のとある島からひとり名古屋に住んでいた。
僕は恋人の家でもいつも本を読んでいた。せまい1Ｋに不釣合いな大きな炬燵でもくもくと読んだ。おかげで恋人の家にも古本の山が築かれていった。

恋人は気が向くとインスタントのレモンティーをだしてくれた。カップはバラバラだったし、ソーサーは文庫本だった（僕の文庫本はあるものは鍋敷きに、あるものはメモ帳にとそれぞれ次の役割を与えられていった）。僕のソーサーはケルアックで恋人のは江戸川乱歩だった。それぞれの表紙にはオレンジ色のカップの跡が重なっていて、僕は甘いインスタントのレモンティーが好きだったし、オレンジ色の輪っかが増えていくのも好きだった。

つづく

2016年12月12日（月） No.40

質量保存の法則について

中学校で質量保存の法則を習った時、それまでの13年の人生で最大の衝撃を受けた。

この世のあらゆる物は、バラバラになりこそすれ、きちんとそれぞれの重みと性質を担ったまま存在している、という事実を知った時、まっさきに頭に浮かんだのはレゴブロックだ。有限のブロックは他のブロックとくっつき、無限の形を創り出す。今朝残したブロッコリーも、三限目に折れた鉛筆の芯も、昨夜切りすぎた爪も、昨年死んだ祖父も、バラバラのブロックになりこそすれ、いつか他のブロックに出会い、何かを構成する一部となるのだ。

そうした不思議な感覚は僕の中に眠る、奥深い物理学の世界への扉を叩いてくれた。叩いてはくれたが、僕は自分の数学の成績を踏まえ、その扉を開けるのはやめておいた。
僕が今触っているキーボードを形づくっている一部は、前は僕の祖父を形作っていたのかもしれない。

質量保存の法則は別の話も思い出させてくれる。こんな話だ。

コナナ島とウドク島は共に地中海に浮かび、面積、人口、暖かい気候に、陽気だが涙もろい島民、絵葉書のような街並みに盛んな漁業と類似点の多い素敵な島である。
そんな双子のような島の違いがふたつだけある。ひとつは漁の方法、もうひとつは沿岸の海の塩分濃度だ。

コナナ島の漁師はたったひとり荒れる近海で命がけの漁を行う。ちいさな一人乗りの船での大変危険な漁で、そのまま帰らなくなる漁師も多い。
ウドク島の漁師は大勢で穏やかな遠海まで漕ぎだし漁を行う。安全な航海であるが、一度海に出れば半年は帰ってこられない長い長い漁である。

涙もろい両島の女達は漁に関する涙もよく流すが、その涙の理由には差異がある。
コナナ島の女は、大挙して戻ってくる漁師たちに夫の姿をみつけられなかった時、悲しみの涙をながし、ウドク島の女は、半年ぶりに目にする漁師たちに夫の姿をみつけた時、喜びの涙をながすのだ。

感情によって涙の成分は変わる。長い間に女達がながした悲しみの涙と喜びの涙は、異なる成分を土地に染み込ませ、他の何かと出会い、川に溶け出し、海に流れ込み、沿岸の塩分濃度に違いをもたらしているのだ。

物理学の良いところは、新しい事実に則り、柔軟に定説を覆すところだ。
相対性理論によって質量保存の法則は厳密には否定されているし、後半部分は、僕が先程つくったフィクションである。

2016年3月7日（月） No.39

今年もお世話になりました

仕事納めの本日ですが、何とか大掃除も終える事ができ、
気持ちよく新年の仕事ができそうです。

2014年12月27日（土） No.38

印度について①

左…入国後一時間で途方にくれる
右…溢れかえるダメな牛たち

「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり…」
と、松尾芭蕉は書き残し、「つまり人生とは旅なんじゃよ」と、ややまわりくどく教えてくれた。

分別のつく大人であれば、彼が言う旅とは物理的に身体が移動する物に限定されていない事は分かる。が、世の中は分別のつく大人のみで構成されているわけではなく、また、そこに至るには遠回りを必要とする者もいる。

そんな(遠回りを必要とする)人生に迷った若者は皆、まだ純粋であったであろう中学生の時に読んだ冒頭の紀行文を思い出し、勘違いをし、旅立つのである。と、僕は推測する。

かく言う僕も遠回りを必要とする若者の一人であったので、例に漏れることなく旅にでた事がある。安定と停滞を履きちがえていた当時の僕は、行き先を思いつく限り最も過酷な国、インドに決め、３ヶ月のＦＩＸチケットと地球の歩き方を握りしめブルブル震えながら飛行機に乗り込んだのだ。どうかしていたのだと思う。

先日、実家に帰った時に父親が古いデジカメをもってきた。結婚式の二次会で当たったそのデジカメには僕のインドでの３ヶ月が収められており、妻の手に渡る前に、僕が急いで削除した見るも恐ろしい写真以外は無事にＰＣへと移り住んだ。
あまりに懐かしいので少しずつコラムに載せていきたいと思う。

2012年5月8日（火） No.37

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